2025年12月30日火曜日

マチアプ利用者、精神的不調が顕著


記事の要旨

  • 最新のメタ分析により、マッチングアプリの利用者は非利用者に比べて抑うつや不安の傾向が有意に高いことが判明した。
  • アプリへの依存的な使用は、衝動性やリスクの高い性行動、身体イメージの歪みと強い相関関係にあることが確認された。
  • 自身の写真を判断される仕組みが、自尊心の低下や拒絶に対する過敏性を高める要因となっている可能性が示唆された。

はじめに

デジタル技術の進化により、恋愛の入り口は劇的に変化した。スマートフォンの画面を指で操作するだけで、無数の出会いが約束される現代。しかし、その利便性の裏側で、利用者の精神衛生が静かに、だが確実に蝕まれている実態が明らかになった。

2024年から2025年にかけて発表された複数の心理学研究およびメタ分析は、マッチングアプリ(オンライン・デーティング・アプリ、ODA)の利用とメンタルヘルスの悪化との間に、無視できない相関があることを示している。スイスやオーストラリア、米国などの研究機関が主導したこれらの調査は、アプリがもたらす「選択の過多」や「拒絶の常態化」が、人間の心理にどのような負荷をかけているかを浮き彫りにした。本稿では、最新のデータを基に、恋愛のデジタル化がもたらす心理的代償について詳報する。

研究の手法と対象

今回、分析の対象としたのは、主に2024年後半から2025年にかけて発表された一連の研究である。

第一に、これまでの23件の関連研究を統合した大規模なメタ分析である。この分析では、マッチングアプリの利用者と非利用者の精神的健康状態を比較検証した。対象者の属性は多岐にわたり、異性愛者だけでなく性的マイノリティも含まれている。また、西洋の先進国(WEIRD諸国)を中心としたデータセットが用いられた。

第二に、スイスの大学生を対象とした横断的研究である。ここでは、単なる利用の有無だけでなく、「問題のある利用(Problematic Use)」、すなわち依存的な使用傾向があるかどうかに焦点が当てられた。

第三に、オーストラリアのフリンダース大学が主導した、45件の研究(2016年〜2023年)を対象としたシステマティックレビューである。ここでは特に、アプリ利用と「身体イメージ(ボディ・イメージ)」の関連性が精査された。

実験結果とデータの詳細

分析の結果、マッチングアプリの利用は、複数の精神的指標においてネガティブな結果と関連していることが示された。

1.抑うつと不安の有意な高さ

メタ分析の結果、アプリ利用者は非利用者に比べ、抑うつ、不安、および心理的苦痛(ディストレス)のスコアが有意に高いことが判明した。特に独身の利用者においてこの傾向は顕著であり、パートナーがいる状態でアプリを使用している層(浮気やポリアモリーなど)では、非利用者との間に有意な差は見られなかった。これは、アプリの使用自体がストレス源となっている可能性に加え、孤独感や焦燥感がアプリ利用の動機となっている「逆の因果関係」も示唆している。

2.依存的利用とリスク行動

スイスの研究データによると、アプリへの依存度が高い層(問題のある利用)は、そうでない層と比較して、衝動性のスコアが高く、抑うつ症状が重い傾向にあった。さらに、この層は「リスクの高い性行動」をとる割合が高く、性感染症の罹患率や、不特定多数との性交渉の頻度が高いことが数値として表れた。アプリが提供する即時的な報酬(マッチングの通知など)が、脳の報酬系を刺激し、衝動制御を困難にしている可能性が指摘されている。

3.身体イメージへの深刻な影響

フリンダース大学によるレビューでは、対象となった研究の約85%において、アプリ利用と「身体イメージの不満」との間に関連が見られた。また、約半数の研究で、拒食や過食といった摂食障害のリスク行動との関連が報告されている。利用者は、プロフィール写真という静止画のみで他者から選別される環境に置かれるため、自身の容姿を過度に客観視し、批判的に捉える「自己客観化」のプロセスが強化されていると考えられる。

4.拒絶の可視化と疲弊

2025年の関連調査によると、利用者の多くが「ゴースティング(突然の連絡途絶)」を経験しており、その半数以上が「動揺した」と回答し、約4割が「自分に不備があると感じた(不全感)」と報告している。対面での関係構築とは異なり、理由なき拒絶が繰り返されるデジタル空間特有の構造が、利用者の自尊心を削いでいる実態が数値化された。

結果からの発展

これらの研究結果は、マッチングアプリを単なる「出会いのツール」として楽観視することへの警鐘である。私たちは、アプリが「カジノのスロットマシン」と同様の心理的メカニズム(変動報酬比率)で設計されていることを理解する必要がある。

スワイプという行為が、他者を商品のように品定めする感覚を麻痺させ、同時に自分自身も商品棚に並べられた商品であるかのような錯覚を引き起こす。この構造的欠陥を認識することが、メンタルヘルスを守る第一歩となる。

我々にできる対策は、デジタル・デトックスの導入である。通知をオフにする時間を設け、自身の価値をアプリ上の「いいね」の数で測定しないよう意識的な切り離しを行う必要がある。また、アプリ運営側に対しても、利用者の精神的負担を軽減するようなアルゴリズムの透明化や、過度な利用を抑制する機能の実装を求める社会的な合意形成が急務であるといえよう。


参考文献

Holtzhausen, N., et al. (2025). Dating app use linked to worse mental health: A meta-analysis. Psychology Today. https://www.psychologytoday.com/us/blog/the-asymmetric-brain/202512/dating-app-use-linked-to-worse-mental-health

Wulf, M., et al. (2025). Relations of problematic online dating app use with mental and sexual health: a cross-sectional study in Swiss university students. BMJ Public Health. https://bmjpublichealth.bmj.com/content/bmjph/3/2/e002569.full.pdf

Bowman, Z., & Drummond, M. (2025). Dating apps and body image risks. Flinders University News. https://news.flinders.edu.au/blog/2025/01/09/dating-apps-and-body-image-risks/

Forbes Health. (2025). Dating App Fatigue & Burnout Statistics. https://www.forbes.com/health/dating/dating-app-fatigue/

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